数日後
宮益坂女子学園 屋上
宮益坂女子学園 屋上
Minori
ふんふんふーん♪
今日は長谷川さんからデモがくる日だね!
今日は長谷川さんからデモがくる日だね!
Shizuku
みのりちゃん、楽しそうねぇ
Airi
さっきから、ずっとそんな感じよね。
浮かれちゃってまあ
浮かれちゃってまあ
Minori
だって、わたし達のオリジナル曲だもん!
どんな曲になるのか、ずーっと楽しみにしてたんだ~!
どんな曲になるのか、ずーっと楽しみにしてたんだ~!
Haruka
ふふっ、気持ちはわかるな
Haruka
あ、メール……。
長谷川さんだ
長谷川さんだ
Minori
本当っ!?
ついにわたし達のオリジナル曲が……!
ついにわたし達のオリジナル曲が……!
Haruka
音楽ファイルは添付されてないみたい。
ええと……
ええと……
Haruka
『すみません、本日お渡し予定だったデモですが、
作業が思ったように進まず、少し遅れそうです』
作業が思ったように進まず、少し遅れそうです』
Haruka
『必ず作るので、少し待っていただけるとありがたいです』
……だって
……だって
Minori
えっ、大丈夫かな……!?
Shizuku
そうね。
体調が悪いわけじゃないといいんだけど……
体調が悪いわけじゃないといいんだけど……
Airi
まあ、ゆぽりんダンスのことがあったから、
注目されてバタバタしてるのかもしれないわ
注目されてバタバタしてるのかもしれないわ
Airi
必ず作るって言ってくれてるんだし、
ゆっくり待ちましょ
ゆっくり待ちましょ
Minori
うん……
Haruka
(……注目……か)
生徒C
その人、ゆぽりんに曲を使ってもらったんなら、
すごい有名人になっちゃうかもね!
すごい有名人になっちゃうかもね!
生徒C
ゆぽりんのフォロワーだけでも500万人くらいいるし、
これから自分で投稿する人も増えるから、
その人の曲もいっぱい使われるんじゃない?
これから自分で投稿する人も増えるから、
その人の曲もいっぱい使われるんじゃない?
Haruka
(……なんだろう。気になるな)
Haruka
——ごめん、みんな。
先に3人で練習始めててくれない?
先に3人で練習始めててくれない?
Airi
え? 別にかまわないけど……どうかした?
Haruka
ちょっと調べたいことがあって。
すぐ合流するよ
すぐ合流するよ
Airi
……わかったわ。
じゃあ、筋トレから始めるわよ!
じゃあ、筋トレから始めるわよ!
雫・みのり
『うん!』
Haruka
(……気のせいだといいんだけど)
Haruka
(まずは長谷川さんの、あの曲の動画を見てみよう。
コメント欄は……)
コメント欄は……)
コメント
『ゆぽりんダンスからきたけど超いい曲! すき!』
『何回聴いても飽きないんだなぁ』
『とても良き~』
『何回聴いても飽きないんだなぁ』
『とても良き~』
Haruka
(さらっと見ただけだけど、
いいコメントが多いな……)
いいコメントが多いな……)
Haruka
……あ……
コメント
『この曲、どこかで聴いたことある気がする』
『わかる。もしかしてパクリ?』
『え、この曲盗作なの?』
『わかる。もしかしてパクリ?』
『え、この曲盗作なの?』
コメント
『ゆぽりんパクり曲使わないで~』
『この曲、概要欄に希望を届けたい!とか書いてて笑った』
『パクり曲でもバズれるっていう希望?笑』
『この曲、概要欄に希望を届けたい!とか書いてて笑った』
『パクり曲でもバズれるっていう希望?笑』
Haruka
(……やっぱり。
元動画だけじゃない。
TrickTrickにも、ピクシェアにも、同じようなコメントがある)
元動画だけじゃない。
TrickTrickにも、ピクシェアにも、同じようなコメントがある)
Haruka
…………
Haruka
(注目されて、たくさんの人に見てもらえるようになるのは
単純に考えると嬉しいことだけど……)
単純に考えると嬉しいことだけど……)
Haruka
(見てくれる人は、自分を肯定してくれる人ばかりじゃない。
考えかたが違う人や、悪意がある人もいる)
考えかたが違う人や、悪意がある人もいる)
Haruka
(注目されて、いい意見がたくさん集まってると特に
こういう書きこみが増えてくるから、
もし長谷川さんがこのコメントを見たんだとしたら——)
こういう書きこみが増えてくるから、
もし長谷川さんがこのコメントを見たんだとしたら——)
Haruka
(……私も、デビューしたての頃は、
ネットでいろいろ言われたな)
ネットでいろいろ言われたな)
Haruka
(表情が硬いとか、ダンスが下手とか、
事務所の人間とコネがあるから持ち上げられてるんじゃないか
……とか)
事務所の人間とコネがあるから持ち上げられてるんじゃないか
……とか)
Haruka
(今でこそ慣れたけど、最初はすごく苦しかった。
頑張っても頑張っても認めてもらえないみたいで)
頑張っても頑張っても認めてもらえないみたいで)
Haruka
(……長谷川さんは、こんなに注目されたのも、
いろんな評価をされるのも初めてだろうし——)
いろんな評価をされるのも初めてだろうし——)
Haruka
……みんな!
練習始めたところなのにごめん。
ちょっとこれを見てくれる?
練習始めたところなのにごめん。
ちょっとこれを見てくれる?
Minori
どうしたの? 遥ちゃん
Minori
な、何これ!? ひどい!!
Shizuku
盗作なんて……。
そんなことするような人じゃないと思うわ
そんなことするような人じゃないと思うわ
Minori
そうだよ!
だって、長谷川さんの作ったメロディーは
どれもキラキラしてるもん!
だって、長谷川さんの作ったメロディーは
どれもキラキラしてるもん!
Minori
誰かのマネじゃ、あんなキラキラしたメロディーは
作れないと思う……!
作れないと思う……!
Haruka
うん、私もそう思う。
それに——
それに——
長谷川
ASRUNが私に希望を届けてくれたみたいに——
長谷川
私も、誰かに希望を届けられる曲を作りたいなと思って……
Haruka
誰かの真似じゃ、希望を届ける曲は作れない。
長谷川さんもそれはわかってるはずだから
長谷川さんもそれはわかってるはずだから
Airi
——ええ、そうよね!
Airi
にしても、最近はクリエイターにも、
こういうアンチが出てくるのね……
こういうアンチが出てくるのね……
Airi
今回は、この曲が急に注目されたから
やっかみ半分でいろいろ言ってくる人もいそうだわ
やっかみ半分でいろいろ言ってくる人もいそうだわ
Shizuku
長谷川さん、このコメントを見て
参ってしまっているのかしら……
参ってしまっているのかしら……
Haruka
その可能性はあると思う
Minori
…………
Minori
なんでみんな、こんなこと書くんだろう……?
書かれた人は嫌な気持ちになっちゃうし、
書いた人も、いいことなんてないのに……
書かれた人は嫌な気持ちになっちゃうし、
書いた人も、いいことなんてないのに……
Airi
……嫌だけど、少し気持ちはわかっちゃうわ
Airi
自分がうまくいってないと、
うまくいってる人が羨ましくなっちゃうのよね。
……情けないことに
うまくいってる人が羨ましくなっちゃうのよね。
……情けないことに
Shizuku
愛莉ちゃん……
Airi
——でも、それは誰かを傷つけてもいい理由にはならないわ!
Haruka
うん。そうだね
Minori
…………
Shizuku
……みのりちゃん、大丈夫?
Minori
あ……うん。
ちょっと、前のこと思い出しちゃって
ちょっと、前のこと思い出しちゃって
Minori
ほら、わたしも少し前までは、
コメントでいろいろ言われてたでしょ?
コメントでいろいろ言われてたでしょ?
Minori
『ひとりだけ華がない』とか、
『なんでこんな子が遥ちゃん達といるの?』とか……
『なんでこんな子が遥ちゃん達といるの?』とか……
Haruka
みのり……
Minori
あ、わたしは本当にみんなに比べてなんにもできなかったから、
そういうコメントがくるのはしょうがないなって
思ってたんだけど……!
そういうコメントがくるのはしょうがないなって
思ってたんだけど……!
Minori
やっぱり、いろんな人にいろんなこと言われた時は
ぺしゃんこになっちゃいそうだったなって……
ぺしゃんこになっちゃいそうだったなって……
Minori
だから……もしかしたら今、長谷川さんも
あの頃のわたしと同じなのかなって思ったの
あの頃のわたしと同じなのかなって思ったの
Haruka
……ねえ、みんな。
長谷川さんに連絡してみない?
長谷川さんに連絡してみない?
Minori
え?
Haruka
まず、長谷川さんがどう感じているのかを
確認したほうがいいと思うの
確認したほうがいいと思うの
Haruka
私達が憶測で話してるだけで、
実際は違うことで悩んでるのかもしれないし
実際は違うことで悩んでるのかもしれないし
Airi
……そうね。
でも、もしさっき言ったようなことで
落ちこんでたら……どうするつもり?
でも、もしさっき言ったようなことで
落ちこんでたら……どうするつもり?
Haruka
その時は——、
長谷川さんの苦しさを受け止めたいと思う
長谷川さんの苦しさを受け止めたいと思う
Haruka
こういう時、ひとりで抱えこむのは
すごくつらいと思うから
すごくつらいと思うから
Minori
遥ちゃん……
Haruka
私もデビューしてすぐの時、いろいろなことを言われて、
すごく苦しかった時があるけど
すごく苦しかった時があるけど
Haruka
その時は——仲間がいたから立ち上がれたんだ
Shizuku
——長谷川さんは今、私達の大事な仲間だものね。
もし本当に苦しんでいるのなら、力になりたいわ
もし本当に苦しんでいるのなら、力になりたいわ
Airi
実際、こういう『心ない言葉を浴びせられる』って
いうことについては、わたしはもちろん、みーんな経験者だしね
いうことについては、わたしはもちろん、みーんな経験者だしね
Airi
たとえ雫や、遥ぐらいの人気アイドルでも——。
ううん、日本中から注目される人気アイドルだからこそ、
いろんな言葉を聞いてきたでしょうし
ううん、日本中から注目される人気アイドルだからこそ、
いろんな言葉を聞いてきたでしょうし
Haruka
……そうだね
Haruka
じゃあ、連絡してみよう
Minori
——うんっ!
Haruka
みんな、通話を始めるよ。
準備はいい?
準備はいい?
Minori
うん! お願いします!
長谷川
『あ……こんにちは』
Minori
長谷川さん!
Minori
あ……
Haruka
(……すごく疲れた顔してる)
Haruka
(やっぱり、あのことが……?)
長谷川
『お約束の日に曲を送れなくて、すみません……』
Airi
気にしなくて大丈夫ですよ!
思いどおりにいかない時なんて、誰にでもあるんですから
思いどおりにいかない時なんて、誰にでもあるんですから
Shizuku
ええ。
長谷川さんのペースで大丈夫です
長谷川さんのペースで大丈夫です
長谷川
『……ありがとうございます』
Haruka
最近は忙しかったでしょうしね。
……ゆぽりんさんのダンス動画のこともありましたし
……ゆぽりんさんのダンス動画のこともありましたし
長谷川
『……っ』
Minori
あ……
長谷川
『曲は、急いで作ります。……その、ちょっと体調が悪くて、
いつできるかはわからないんですけど、必ず最後まで——』
いつできるかはわからないんですけど、必ず最後まで——』
Minori
あ、あの……!
長谷川
『……はい?』
Minori
体調が悪いのはもしかして……コメントのせい……ですか?
長谷川
『……!』