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Chapter 7: ? (edit)
そして、巡り会う (Soshite, Meguriau)
そして、巡り会う (Soshite, Meguriau)
Kanade's Room
【Yuki】
『——はじめまして。雪です』
Kanade
『あ……』
Kanade
『……はじめまして、雪さん。
K、です……』
K、です……』
Kanade
『……えっと……』
【Yuki】
『メッセージありがとうございます。
Kさんと一緒に作れるなんて、とても光栄です』
Kさんと一緒に作れるなんて、とても光栄です』
Kanade
『あ、いえ。こちらこそ……。
あの……曲作り、承諾してくれて、
ありがとうございます』
あの……曲作り、承諾してくれて、
ありがとうございます』
【Yuki】
『いえ。
…………』
…………』
Kanade
『えっと…………』
Kanade
(……どうしよう、ちょっと気まずいな)
Kanade
(他人と一緒に曲を作ったことなんてないから、
どう話を進めていけばいいのか、よくわからない……)
どう話を進めていけばいいのか、よくわからない……)
【Yuki】
『——私、ずっと前からKさんの曲を聴いていたんです』
Kanade
『え……。そうなんですか?』
【Yuki】
『はい。どれも、素敵な曲だなって思って……。
だから、一緒に曲を作らないかって
メッセージをいただけて、本当に嬉しかったです』
だから、一緒に曲を作らないかって
メッセージをいただけて、本当に嬉しかったです』
Kanade
『……そうなんだ。
……よかった』
……よかった』
【Yuki】
『それで、Kさんはどうして私に
共同制作の依頼をしてくださったんですか?』
共同制作の依頼をしてくださったんですか?』
Kanade
『あ……』
Kanade
『……あの。雪さんが作ったアレンジを
聴かせてもらったんです。それで……』
聴かせてもらったんです。それで……』
Kanade
『すごく強い想いを感じたから、です』
【Yuki】
『強い……想い?』
Kanade
『はい。
あのアレンジ曲を聴いて、
見えたような気がしたんです』
あのアレンジ曲を聴いて、
見えたような気がしたんです』
Kanade
『深い——絶望の底みたいな世界を』
Kanade
『でも、そんな中にも、
小さな光が見えるような気がしました』
小さな光が見えるような気がしました』
Kanade
『わたしも、そういう曲を作りたいんです』
Kanade
『……光も届かない絶望の底に、小さな光を灯す。
そういう曲を作りたい』
そういう曲を作りたい』
Kanade
『だから……この感覚を音で表現できるあなたとなら、
もっと自分の作りたい曲が作れるんじゃないか、って。
そう、思ったんです』
もっと自分の作りたい曲が作れるんじゃないか、って。
そう、思ったんです』
【Yuki】
『…………』
Mafuyu
(この人は、やっぱり感じてるんだ。
深い絶望を)
深い絶望を)
Mafuyu
(そんな中にいて、それでも光を灯そうとしてる)
Mafuyu
(……この人となら、もしかして……)
Kanade
『あの……雪さん?』
【Yuki】
『あ……ごめんなさい』
【Yuki】
『そんな風に思っていただけていたなんて、
思っていなくて……』
思っていなくて……』
【Yuki】
『すごく嬉しいです。
改めて、これからよろしくお願いします』
改めて、これからよろしくお願いします』
Kanade
『あ……はい、よろしくお願いします』
Kanade
『それじゃあ早速、
どうやって曲を作っていくか、話しましょうか』
どうやって曲を作っていくか、話しましょうか』
【Yuki】
『……じゃあ、私はKさんの曲のミックスをすれば
いいんですね』
いいんですね』
Kanade
『はい。
……ゆくゆくは歌を入れた曲も作りたいんですけど、
まずはその形でいきましょう』
……ゆくゆくは歌を入れた曲も作りたいんですけど、
まずはその形でいきましょう』
【Yuki】
『わかりました。いい作品が作れるように、
頑張りますね』
頑張りますね』
Kanade
『ええと、あとは……。あ、そうだ。
基本的に作業中はすぐにやり取りしたいので、ボイスチャットに
ログインしたままの状態にしてもらっていいですか?』
基本的に作業中はすぐにやり取りしたいので、ボイスチャットに
ログインしたままの状態にしてもらっていいですか?』
【Yuki】
『大丈夫ですよ。……あ』
Kanade
『……? どうかしましたか』
【Yuki】
『……ごめんなさい。私、家の都合で
夜の1時以降でないと、作業ができなくて……』
夜の1時以降でないと、作業ができなくて……』
Kanade
『そうなんですか?』
【Yuki】
『はい。……両親が寝るのが、その時間なんです』
Kanade
『なるほど……』
Kanade
『……じゃあ、25時になったら、
ナイトコードに集まることにしませんか?
都合が悪ければ連絡をください』
ナイトコードに集まることにしませんか?
都合が悪ければ連絡をください』
【Yuki】
『わかりました』
Kanade
『じゃあ、今日はここまでにしましょうか。
作り始めるのは明日からで』
作り始めるのは明日からで』
【Yuki】
『はい。
明日は——25時、ナイトコードで、ですね』
明日は——25時、ナイトコードで、ですね』
The next day
Kanade
『——じゃあ、これからよろしくお願いします』
【Yuki】
『はい。新しい曲のミックスを進めていきますね。
何かあったら声をかけてください』
何かあったら声をかけてください』
Kanade
『はい』
Kanade
『…………』
Kanade
(……とりあえずこのやりかたで進めてみてるけど、
これで本当にいいのかな)
これで本当にいいのかな)
Kanade
(雪さんが集中してやりたい人だったら、
ファイルのやりとりだけで完結してもいい気はするし……)
ファイルのやりとりだけで完結してもいい気はするし……)
【Yuki】
『…………』
Kanade
(……ううん。まずは1曲ミックスしてもらおう)
Kanade
(雪さんがどうやってあの曲を作り上げたのか、
近くで見ておきたい)
近くで見ておきたい)
Kanade
(……よし、1サビまでのラフができた)
Kanade
(だけど……イントロの印象が弱いかも。
もう少し惹きつけられるようにしたい)
もう少し惹きつけられるようにしたい)
Kanade
(雪さんに印象を聞いてみようかな。
でも……)
でも……)
【Yuki】
『…………』
Kanade
(作業に集中してるみたいだし、またあとに——)
【Yuki】
『Kさん、どうかしましたか?』
Kanade
『え……!』
【Yuki】
『あ、驚かせてすみません。
ミュートを解除してるみたいだったので、
何か話したいのかなと思って』
ミュートを解除してるみたいだったので、
何か話したいのかなと思って』
Kanade
『あ……そう、ですか』
Kanade
『ちょうど、次の曲のラフを聴いてもらおうかなと
思ってたので……お願いしてもいいですか?』
思ってたので……お願いしてもいいですか?』
【Yuki】
『はい、もちろんいいですよ』
Kanade
(……不思議な人だな)
Kanade
(何も話してないのに、気配を読んだみたいだった)
【Yuki】
『……やっぱり、Kさんの曲はどれも素晴らしいですね』
Kanade
『あ、どうも……』
Mafuyu
(本当に——すごく揺さぶられる曲)
Mafuyu
(一音一音が胸の中に染みこんで、
内側から私を揺らす)
内側から私を揺らす)
Mafuyu
(でも……もしこれが、もっと——)
【Yuki】
『……あえて言うなら、
淀みが足りないような気がしました』
淀みが足りないような気がしました』
Kanade
『淀み?』
【Yuki】
『何かに追い詰められるような切迫感は
ちゃんとあるんですけど』
ちゃんとあるんですけど』
【Yuki】
『——どこにも行けないし、何にもなれない』
【Yuki】
『ただ自分の手足がゆっくりと腐り落ちていくのを
黙って見ることしかできないような……。
そんな淀んだ雰囲気があるといいかもしれないなと思いました』
黙って見ることしかできないような……。
そんな淀んだ雰囲気があるといいかもしれないなと思いました』
Mafuyu
(そうしたらこの曲はきっと、
揺さぶってくれるような気がするから)
揺さぶってくれるような気がするから)
Kanade
『——どこにも行けないし、何にもなれない、か』
Kanade
『……ありがとうございます、参考にして考えてみます』
Kanade
(……淀み……。
たしかに今のままだと、どこかシンプルな印象がある)
たしかに今のままだと、どこかシンプルな印象がある)
Kanade
(落ちサビでその要素を出してみたらどうなるか、
試してみよう)
試してみよう)
【Yuki】
『…………。
Kさんは、曲を作り始めて長いんですか?』
Kさんは、曲を作り始めて長いんですか?』
Kanade
『え? えっと……』
Kanade
『すごく簡単なものを作ったのは4歳の頃ですけど……。
DTMを始めたのは10歳頃だから、5年くらいかな』
DTMを始めたのは10歳頃だから、5年くらいかな』
【Yuki】
『5年? もうそんなに長いあいだ作られているんですね』
【Yuki】
『あ……。4歳から11年っていうことは、
Kさんは15歳なんですか?』
Kさんは15歳なんですか?』
Kanade
『はい』
【Yuki】
『じゃあ、私と同い年なんですね。
私も同じ、15歳なんですよ』
私も同じ、15歳なんですよ』
Kanade
『え……そうだったんですか』
Kanade
『しゃべりかたがしっかりしてるから、
年上の人かと思ってました』
年上の人かと思ってました』
【Yuki】
『しっかりなんて、そんなことないですよ』
【Yuki】
『それに実は、チャットがつながってから
ずっと緊張してたんですよ?』
ずっと緊張してたんですよ?』
Kanade
『え? ……ふふ。
わたしだけじゃなくて、雪さんも緊張してたんですね』
わたしだけじゃなくて、雪さんも緊張してたんですね』
【Yuki】
『もちろんですよ。
こんな風に、顔も知らない人と話すのも初めてですし』
こんな風に、顔も知らない人と話すのも初めてですし』
Kanade
『わたしも初めてだな。
曲はずっとお父さんと作ってたし——』
曲はずっとお父さんと作ってたし——』
【Yuki】
『お父さん?
お父さんも曲を作ってるんですか?』
お父さんも曲を作ってるんですか?』
Kanade
『……あ……。
……はい』
……はい』
【Yuki】
『……ごめんなさい、脱線しちゃって。
作業に戻りましょうか』
作業に戻りましょうか』
Kanade
『……そうですね』
【Yuki】
『あ、でもその前にひとつ——』
【Yuki】
『私のことは、雪さんじゃなくて、雪で大丈夫ですよ。
同い年ですし』
同い年ですし』
Kanade
『……うん。わかった』
Kanade
『わたしも、Kでいいよ。
堅苦しいのは好きじゃないし』
堅苦しいのは好きじゃないし』
【Yuki】
『……じゃあ、K。
またあとで』
またあとで』
Kanade
(やっぱり……不思議な人だな)
Kanade
(曲作り以外のことを話してても、
あんまり嫌な気がしない)
あんまり嫌な気がしない)
Kanade
(全部そのまま受け止めてくれて、
でも触れられたくないところは、
そっと避けてくれるような……)
でも触れられたくないところは、
そっと避けてくれるような……)
Kanade
(年齢は一緒だけど、雪はすごく大人……なのかな)
Kanade
(だけど、アレンジで聴いたあの音はすごく——)
Kanade
……ううん。
集中しなくちゃ
集中しなくちゃ
Kanade
わたしは、曲を作り続けなくちゃいけないんだから——