セカイの狭間
MEIKO
ここは今日も平和ね
MEIKO
ふふ。歌を歌って、 今日ものんびりセカイを見守ろうかしら
MEIKO
あら? これ……想いの欠片ね
???
ぐすっ……
MEIKO
え……。今、何か……
???
……ううっ……うっ……
MEIKO
……誰か、泣いてるわ
MEIKO
この声……。 もしかして、この欠片から……?
MEIKO
欠片だからって、このまま放っておけないわね!
MEIKO
——あなたの想いに、少し触れさせてちょうだい
???
MEIKO
ここは……
MEIKO
(オシャレで落ち着いた感じだけど……。 なんだか、胸の奥がギュッと締めつけられる……)
MEIKO
(これは……悲しさ? いえ、悔しさかしら……)
MEIKO
……何か落ちてるわ
MEIKO
これ……原稿用紙? くしゃくしゃに丸められちゃってるけど……
原稿用紙の文字
●主人公 容姿も頭脳も平凡な高校生の少女。 夢はあるが、親や教師からは反対されている
MEIKO
——……書かれてるのは、これだけみたいね
MEIKO
欠片に触れる前に聞こえた、泣いている声も気になるし……。 少し見てまわろうかしら
MEIKO
あ……ここにも原稿用紙が落ちてるわ。 こっちのは、くしゃくしゃになってないわね
原稿用紙の文字
●理想のあの人 主人公がなりたいと願う理想的な人間であり、大人
原稿用紙の文字
性別や年齢に関係なく、誰でも魅了してしまうような、 あたたかく優しい笑顔で主人公に手を差し伸べる
MEIKO
んー……さっき拾った原稿用紙には『主人公』ってあったし。 物語に出てくる登場人物の設定っていうやつみたいね
MEIKO
つまり、想いの持ち主は 何か物語を創っている人っていうことかしら?
MEIKO
…………! 誰か、いるの?
???
……うん。いる……
MEIKO
(……! 女の子?)
MEIKO
えっと……。 あなたがこの欠片のセカイの、想いの持ち主?
???
……セカイ? なんのことかわからないけど、違うよ
???
わたしは……『容姿も頭脳も平凡な高校生の少女』——
名前のない少女
まだ誰でもない、名前すらもらえていない“主人公”なの
MEIKO
平凡な高校生……主人公……
MEIKO
それって、この原稿用紙に書いてあった……! あなたのことなの?
名前のない少女
うん……
名前のない少女
……そんなくしゃくしゃな紙、拾ってくれたんだ。 ありがとう
MEIKO
いえ、いいのよ。 むしろごめんなさい。勝手に見ちゃって
名前のない少女
気にしないで。 もう、ただのゴミだから……
MEIKO
でも、ここからあなたは生まれたんでしょ。 そんな風に言わないで……?
名前のない少女
…………。 優しいんだね……
名前のない少女
だけど、わたしはどうせすぐに捨てられる。 他の主人公達もそうだったから
MEIKO
え……
MEIKO
想いの持ち主は、物語を創っているんでしょ? それなら、主人公は大切にするんじゃ……
名前のない少女
…………
名前のない少女
あの子は、自分が創る『主人公』と 自分のことが嫌いみたいなの
MEIKO
嫌い? それはどうして?
名前のない少女
それは——
???
ぐすっ……う……ううっ……
MEIKO
(この、泣いてる声……。 セカイに入る前に聞いた声と同じだわ)
名前のない少女
あの子……また、泣いてる
MEIKO
それじゃあ、この声の主が想いの——
名前のない少女
…………
MEIKO
…………! どうしたの? 大丈夫……?
名前のない少女
え……?
MEIKO
あなたも泣いてるじゃない……
名前のない少女
あ……これ?
名前のない少女
大丈夫。わたしの半分はあの子でできているから、 勝手にこうなっちゃうみたい
MEIKO
半分は、あの子で……
名前のない少女
あの子は、自分が創る『主人公』と 自分のことが嫌いみたいなの
MEIKO
(もしかしてこの子……想いの持ち主が、 自分を投影しながら創った主人公なのかしら)
MEIKO
(きっと、いろいろな想いや願いを託して生み出した 主人公なんだと思うんだけど……)
MEIKO
(でも、想いの持ち主は自分のことが嫌いだから、 自分と似ている主人公のことも好きになれない……?)
MEIKO
(もしそうなら、そんなのって……)
MEIKO
(なんだか、このままじゃいけない気がする……)
MEIKO
(何か、私にできることはないかしら?)