Chapter 7: The Light I Saw Next To Me
隣で見えた光 (? (edit))
隣で見えた光 (? (edit))
25時
絵名の部屋
Mizuki
『えっ! なんで、えななんのところに雪がいるの!?』
Ena
まあ、なんていうか……
Mafuyu
……帰り道に休んでたら、雨が降ってきて…… えななんが“家に来い”って言ってくれたの
Mafuyu
でも、お母さんから電話がかかってきて、 帰ってきなさいって……
Mafuyu
そうしたら、えななんが電話をかわって、 家に泊めさせてほしいって、お母さんに言ってくれた
Mizuki
『えっ、えななんが!?』
Ena
しょうがないでしょ。 あの時の雪、見てられなかったんだから
レン
『あ、あのね。絵名ちゃん、すっごくかっこよかったんだよ』
Kanade
『え?』
レン
『まふゆちゃんが“帰る”って話してる時に、 バッてスマホを取って……。まふゆちゃんのお母さんと 堂々と話してたんだ』
Mizuki
『へえ……そうだったんだ。 えななん、すごいじゃん!』
Ena
別に、大したことじゃないってば。 ほっとけなかっただけだし
Mizuki
『ねえねえ、雪! えななんの家はどんな感じなの?』
Ena
ちょっと、何聞き出そうとしてんの?
Mafuyu
えななんの家……
Mafuyu
えななんの部屋は散らかってる
Ena
は!? 十分綺麗でしょ!
Mafuyu
綺麗……? 服とか、画材があちこちに転がってるけど
Mizuki
『あははは! なんか想像できるな~』
Kanade
『……でも、きっとわたしの部屋よりも 片づいてると思う』
Mafuyu
うん。Kも、もう少し片づけたほうがいいと思う
Kanade
『そ、そうだよね……』
Mizuki
『それでそれで? 他には?』
Mafuyu
…………
Mafuyu
私の家とは、なんだか違った。 何が違うのかは、はっきりわからないけど……
Mizuki
『まあ、たしかに違いそうだよね~。 すっごい賑やかそうっていうか』
Kanade
『えななんのお母さんも、 なんとなく元気そうなイメージがあるね』
Mizuki
『わかるわかる! あ、弟くんには会った?』
Mafuyu
……うん、えななんがにんじんを押し付けて ケンカしてた
Ena
ちょっと、そんなこと言わなくてもいいでしょ!?
Mizuki
『あはは! 相変わらずだな~』
Ena
あいつだってにんじん嫌いなくせに、 好き嫌いするなとかうるさいんだもん
Mizuki
『あー、すっごく想像つく! いいな~ボクもその場にいたかったー』
Ena
Amiaは絶対煽ってくるから駄目
Kanade
『ふふっ……』
Mafuyu
……そろそろ、作業始める?
Mizuki
『あはは、そうだね! ついいろいろ聞いちゃったな~♪』
Kanade
『あ……この前聴いてもらったデモ、 詰めてきたから共有するね。何かあったら言ってほしい』
Ena
ありがと、K。 早速聴いてみるね
Mafuyu
…………
Mafuyu
……この音なら……
Mizuki
『え、もしかしてもう書いてるの? 早くない?』
Mafuyu
うん、ある程度イメージはできてたから
Ena
へえ、どんな感じにするの?
Mafuyu
どんな、感じ……
Mafuyu
……うまく口には出せない。 だから、書いてみる
Ena
ふうん……。 ちょっと書いたら見せてよ。 絵のラフにも影響ありそうだし
Mafuyu
別にいいけど……。 えななんはどんな絵を描こうと思ってるの
Ena
んー……。今回はイントロが重いけど、 ラストに向かって光が見える感じがするから もがきながら這い上がるイメージにしよっかなって
Mafuyu
…………
Ena
だから、サビあたりはこういう絵にするつもり
Ena
どう?
Mafuyu
……何がどうなってるのかわからない
Ena
今、簡単に描いただけだから!! これが人で、上に向かってもがいてる感じ
Mafuyu
…………
Mafuyu
……光が見える感じがあるのはわかるけど、 這い上がるよりは、解放されるほうがイメージに合ってる
Ena
解放される……?
Mafuyu
うん、足が重くて動けないけど 最後は軽くなるようなイメージ
Ena
それって、解放されたあとはどうなるの?
Mafuyu
…………わからない
Mafuyu
わからない、けど……。 自由になったのなら、自分の足で歩いていく気がする
Ena
自分の足で、ね……
Ena
……じゃあ、こういうのは? ツタとかが巻き付いてる感じにするの
Mafuyu
…………ツタ? 紐に見えるけど
Ena
だから、ラフだからだってば! あとでちゃんと清書するから、今は心の目で見て!
Kanade
『……なんだか、いつもよりも楽しそうだね』
Mizuki
『だね! 仲良くなってるって感じ! お泊り効果かな?』
Ena
はあ? いつもと変わんないでしょ
レン
『ぼくも……まふゆちゃん、いつもより 楽しそうだなって思う』
レン
『きっと、絵名ちゃんのおかげだね』
Ena
私は別に何もしてないけど……
Ena
(……楽しそう、か)
Ena
(……あ、すっごく真剣に書いてる)
Ena
(……まあ、たしかに夢中でやってるって感じはするかな。 さっきは、あんなにお母さんのことで悩んでたのに)
Mafuyu
……軽くだけど1サビ後まで書いてみた。 見てみてくれる?
Kanade
『うん、わかった。データ送って』
Mizuki
『へ~、こうなったんだ! いいじゃん、もう1回曲のほう聴いてみよっと♪』
Ena
なるほどね、解放されるってこういうイメージか
Ena
……ちょっとわかったかも。 私もラフ直してみる
Mafuyu
……じゃあ、私は続きを書くね
Kanade
『ふたりともありがとう。よろしく』
Mafuyu
……うん
Ena
(ほんと、すごい集中して書いてるな……)
Ena
(あの歌詞も、奏の曲を聴いて 自分で感じ取ったイメージをちゃんと表現しようとしてる)
Ena
…………
Ena
(——音楽をやりたいって親に言ったって聞いたけど、 あんだけ親に何も言えないまふゆが『やりたい』って言うなんて、 相当勇気出したんだろうな)
Mafuyu
……どうしたの?
Ena
別に。あんたにとって、 曲作りって大事なんだなって思っただけ
Mafuyu
……大事……
Mafuyu
…………
Mafuyu
わからない、けど……
Mafuyu
今は、みんなと曲を作りたい、と思う
Ena
え……今の、顔……
Mizuki
『えななん、どうしたの?』
Ena
なんでもない。なんでもない、けど……
Ena
ああもう、スケブどこやったっけ……
Mafuyu
……スケッチブックなら、カバンのところにあったけど
Ena
あ、ありがと!
Mafuyu
何かするの?
Ena
あーうん。でもあんたはそのまま作業してていいから
Mafuyu
……? わかった
Ena
(今の顔……。 さっきの石膏像みたいな顔とは全然違った)
Ena
(まふゆの想い——意志が、ちょっとだけ見えた気がする)
Ena
(やりたいことを真剣にやろうっていう、そんな表情)
Ena
(……まふゆって、こういう顔するんだ。 何をしてもつまんなそうにしてると思ってたのに)
Ena
(やっぱり——さっきの…… “みんなと曲を作りたい”っていうのが関係してるのかな)
Ena
(誰に言われたからじゃない。 まふゆ自身がやりたいって思ったことだから……)
Ena
(だったら——)
Ena
……できた
Mizuki
『え、できたって何が? もしかしてラフ!?』
Ena
違う違う、まふゆを描いてたの
Mafuyu
え……?
Ena
ほら、見てみて
レン
『わあ……!』
レン
『まふゆちゃんの顔、すっごくかっこいいね……!』
Mafuyu
…………
Ena
どう? まふゆ
Mafuyu
……絵名には、私がこう見えるんだね
Mafuyu
なんだか……変な感じがする
Mafuyu
でも——どうしてこう見えるの?
Ena
え?
Mafuyu
どうして絵名には、私がこんな風に見えたの?
Ena
どうしてって……。 まふゆの意志が、ちょっと見えた気がするっていうか……
Mafuyu
意志って何? どういうこと?
Ena
いや、だから……やりたいことをやろうって気持ち!
Ena
ていうか、合ってるかわかんないんだからね! 私がそう見えたってだけで!
Mafuyu
……そうなんだ……
Ena
ほら、もういいから作業続けよ!