類
うん、今日持っていくものは、
これで全部かな
これで全部かな
類
さて――僕達のショーを作るために、頑張らないとね
えむ
あ! 類くんおはよう!
類
やあ、おはよう、えむくん。
昨日は心配かけたね
昨日は心配かけたね
えむ
ううん! あたしは全然だいじょーぶっ!
でも……
でも……
司
…………
寧々
……類
類
…………
司
類、昨日は……
類
司くん、実は今日、試したいことがあるんだ
司
試したいこと?
類
新しい演出を思いついたんだ。
どうかな?
どうかな?
司
……ほう
司
新しい演出か。
面白そうじゃないか
面白そうじゃないか
類
――これからやる演出は、事故がないよう
マットを敷いたり、できる限りの配慮をしている
マットを敷いたり、できる限りの配慮をしている
類
それでも、何が起きるかは分からない。
僕は役者に、いつも限界を超えてほしいと思ってしまうからね
僕は役者に、いつも限界を超えてほしいと思ってしまうからね
類
……それでもやるかい?
司
――当たり前だ!
司
オレは未来のスター! 天馬司だぞ!
寧々
だ……大丈夫かな
えむ
き、きっと大丈夫だよ~!
類
実は前々からやってみたいと思って準備していた演出があってね。
これなんだけど
これなんだけど
司
ボタン?
類
ああ。これを押すと――
司
な、なんだ!?
ステージの奥に、壁がせり上がって……!?
ステージの奥に、壁がせり上がって……!?
寧々
い、いつの間にこんなもの……?
えむ
わ~! おっきいね~!
ステージの屋根もこえちゃいそう!
ステージの屋根もこえちゃいそう!
えむ
……む? あそこにハシゴがかかってる!
上まで行けちゃいそうだね!
上まで行けちゃいそうだね!
寧々
本当だ。まさか……あそこまで登らせるつもり?
類
フフ、さすが寧々だね。ご明察だ
類
――これを使うのは、ハロウィンショーのクライマックスシーンだ
類
死者達によって地獄の穴の底に落とされた園長は、
死者達から逃げながら、死にもの狂いで穴を這い上がる
死者達から逃げながら、死にもの狂いで穴を這い上がる
類
このショーの山場のひとつだ、劇的に見せたい。
けれど……ただ奈落に落ちて出てくるだけじゃ
面白くない。そこでだ
けれど……ただ奈落に落ちて出てくるだけじゃ
面白くない。そこでだ
類
“観客に見える穴”を作ることにしたんだ
えむ
観客に見える穴……?
寧々
あ……! このステージ全体を穴の底に見立てるってこと?
類
その通り
類
司くんがゾンビロボットに捕まり奈落に落ちたあと、
ステージ上は暗転!
ステージ上は暗転!
類
その間に、司くんにはこの壁の一番上にまで
登ってもらう。あまり時間はないから急いでね
登ってもらう。あまり時間はないから急いでね
類
そして明転と共にジャンプ!
穴の底——ステージの上に着地してほしい
穴の底——ステージの上に着地してほしい
類
落下したあとは、這い上がるために
また壁を登ってもらうけれど……
また壁を登ってもらうけれど……
類
モタモタしていると、ゾンビロボットに引きずり降ろされるから
速やかに登ってほしい
速やかに登ってほしい
寧々
類、この高さでそれは……さすがに危ないんじゃない?
あそこからジャンプするなんて……
あそこからジャンプするなんて……
えむ
とっても楽しそう~!!
寧々
あのね……
司
……まったく、簡単に言ってくれるな。
暗転中に登るだけでも一苦労だぞ
暗転中に登るだけでも一苦労だぞ
司
しかも登るのをロボットに妨害される、だと?
類
でも司くんなら――できるだろう?
司
――ああ、当然だ!
オレはスターになる男だからな
オレはスターになる男だからな
司
さっそくやるぞ!
ゾンビロボットも用意しろ!
ゾンビロボットも用意しろ!
司
『うわああ~~~落ちる~~~!!』
司
(よし、高さはあるが着地はできる! ……んん!?)
司
し、下から強風が……!?
なんだこれは!
なんだこれは!
類
臨場感を出すための仕掛けだよ。
さあ、体勢を整えて、司くん!
さあ、体勢を整えて、司くん!
司
(な、なにクソー!!)
寧々
ちゃんと着地した……!
えむ
司くんすごーい!
類
けど、大変なのはここからだよ
司
『な、なんだこの穴は……。
遊園地の下にこんな場所があったのか?』
遊園地の下にこんな場所があったのか?』
司
『な……! 大量の死者が!
このままじゃ、オレもこいつらの仲間入りに……』
このままじゃ、オレもこいつらの仲間入りに……』
司
『こんなところで死んでたまるか!
絶対に地上に戻ってやるぞ!』
絶対に地上に戻ってやるぞ!』
類
さあ、ここから襲ってくるゾンビロボットが10体だ!
無事に登りきれるかな!?
無事に登りきれるかな!?
司
うぉおおおお!
類
ただ登るだけじゃダメだよ!
全身を使って魅せるんだ!
全身を使って魅せるんだ!
司
くっ……ならばこれでどうだ!!
類
ああ、いいね……! そこでゾンビロボットを振り落とそう!
いけるかい!?
いけるかい!?
司
当たり前だ! うりゃあああ!!
類
いいや君ならまだまだいけるはずだ!
もっと派手にいこうじゃないか!!
もっと派手にいこうじゃないか!!
えむ
……えへへっ♪
類くん、とっても楽しそうだね!
類くん、とっても楽しそうだね!
寧々
……うん。そうだね
司
ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……。
も、もう……動けん……
も、もう……動けん……
類
お疲れさま、司くん。
新しい演出はどうだったかな?
新しい演出はどうだったかな?
司
まったく……本当に死ぬかと思ったぞ。
だが……
だが……
司
未来のスターにふさわしい、面白い演出だった。
観客もスタンディングオベーション間違いなしだ
観客もスタンディングオベーション間違いなしだ
司
いいか、類!
これからもお前は、お前のやりたい演出を全力でやれ!
これからもお前は、お前のやりたい演出を全力でやれ!
司
どんな演出だろうが、オレはそれを完璧に演じてみせる!
類
それはよかった。ちょうど追加したい演出があったんだ
類
……フフ、何からやろうかなあ?
司
あ。と、とは言っても、あまり危険なものはだな……
類
いやぁ、やはり司くんは頼りになるね。
それじゃあ次は、人ひとり入るサイズの水槽を持ってくるよ
それじゃあ次は、人ひとり入るサイズの水槽を持ってくるよ
司
待て待て待て!
それで何をする気だ!?
それで何をする気だ!?
えむ
えへへっ☆
えむ
ふたりが仲直りできてよかったね、寧々ちゃん!
寧々
うん。それに、とっても嬉しそう
寧々
……ちゃんと受け止めてもらえてよかったね、類