司
よーし!
それじゃあ今日から本格的に練習開始だ!
それじゃあ今日から本格的に練習開始だ!
えむ
おーっ!
えむ
でも、司くんケガ大丈夫?
もう痛くない?
もう痛くない?
寧々
思いっきり頭打ったんだから、無理しないでよね。
それ以上頭がアレになったら困るし
それ以上頭がアレになったら困るし
司
心配しているんだかバカにしているんだか……
司
心配するな。念のため近所の病院にも行ったが、
特に問題ないとのことだった
特に問題ないとのことだった
司
今は練習に集中あるのみ! いいな?
えむ
司くんがそういうなら……りょうか~い!
寧々
じゃあ、台本の読み合わせから始めよっか。
類、台本コピーしたって言ってたけど……
類、台本コピーしたって言ってたけど……
類
…………
寧々
類? 聞いてる?
類
ん? ああ、台本はここにあるとも。
早速始めようか!
早速始めようか!
寧々
……うん
えむ
『園長~! 今日はなんだかいつもより、
たくさんのお客さんが来てくれてますよ!』
たくさんのお客さんが来てくれてますよ!』
司
『何? それは喜ばしいな。
どれどれ、どんなお客さんが来てるか見てみよう……ん?』
どれどれ、どんなお客さんが来てるか見てみよう……ん?』
司
『な、なんだあれはー!
墓の中から出て来てるじゃないか!』
墓の中から出て来てるじゃないか!』
司
『あれはもしかして……、
いや、もしかしなくとも死者の群れだ!
こっちへ向かって来てるぞ!』
いや、もしかしなくとも死者の群れだ!
こっちへ向かって来てるぞ!』
えむ
『うわ! ほんとだ!
ちょっと臭そうでイヤですね~』
ちょっと臭そうでイヤですね~』
司
『そういう問題じゃない!
早く、お客さん達を逃がさなければ』
早く、お客さん達を逃がさなければ』
司
『死者の群れに襲われる前に!』
類
……ここで司くんが舞台から客席の中央へ。
観客に向かって呼び掛ける
観客に向かって呼び掛ける
司
『みんな、早くここから逃げるんだ!
死者達がやってくるぞ!』
死者達がやってくるぞ!』
類
そしてここで、死者の群れに向かって……
類
……いや、ここではそのまま司くんは舞台へ
戻ってもらおう。そこで次のセリフに——
戻ってもらおう。そこで次のセリフに——
司
んん?
そんなに地味でいいのか?
そんなに地味でいいのか?
司
最初に死者の群れが出てくるシーンなんだぞ。
もう少し盛り上げたほうがいいだろう
もう少し盛り上げたほうがいいだろう
類
ああ、そうだね……
司
オレがゾンビロボットと戦うのもいいな!
えむ
かっこいい~!
あたしもそれやりたい!
あたしもそれやりたい!
寧々
うん。いいかもね。1体に苦戦したら、
死者が大変な相手だってこともよくわかるし
死者が大変な相手だってこともよくわかるし
類
……うん、たしかにそうだね。
1体に苦戦しているうちに、
反対方向から死者の群れが迫ってくる——
1体に苦戦しているうちに、
反対方向から死者の群れが迫ってくる——
類
じりじりとステージの端まで追い込まれる司くん、
そして背中側から近づく死者に、観客は息を呑む……
そして背中側から近づく死者に、観客は息を呑む……
司
ふむ、全員の目がオレに釘づけになるわけだな!
えむ
それでそれでっ?
類
死者が一斉に迫ってきたところで、
司くんが驚異的な跳躍をする
司くんが驚異的な跳躍をする
司
おお! ワイヤーアクションだな!
類
空中で大回転したあと、
死者達の上空を飛び越えて——
死者達の上空を飛び越えて——
えむ
すっごくおもしろそうだね~♪
司
ああ、派手でオレにピッタリの演出だ!
類、次は——
類、次は——
類
いや……このあとのテンポを考えると
今の流れはあまり良くないかな
今の流れはあまり良くないかな
司
へ?
類
僕のほうでもう少し考えてみるよ。
とりあえずここは一旦置いて、先に進もうか
とりあえずここは一旦置いて、先に進もうか
寧々
類……?
司
よし、次は例の、奈落に引きずりこまれるシーンだな!
司
前回はゾンビロボットに足を引っ張られてしまったが、
今回は見事に決めてやるぞ!
今回は見事に決めてやるぞ!
類
……それなんだけどね、司くん
類
演出を少し変えようと思うんだ
司
何?
類
前は司くんがゾンビロボットに
引きずりこまれる流れにしたけれど、
観客からは奈落の中が見えづらいだろう?
引きずりこまれる流れにしたけれど、
観客からは奈落の中が見えづらいだろう?
類
だから舞台の奥からゾンビロボットが現れるようにしたいんだ。
死者が迫って来る様子がわかるようにね
死者が迫って来る様子がわかるようにね
類
司くんにはマイムで引きずりこまれる演技をしてもらう。
そっちのほうが、全体的に見ると派手だろう?
そっちのほうが、全体的に見ると派手だろう?
司
まあ、それも悪くはないが……
司
……本当に、それでいいのか?
類
うん? どういう意味だい?
司
せっかくのハロウィンショーなんだ、
もっと斬新なことをやっていくべきだ!
いつも以上にやる気だぞ、オレは!
もっと斬新なことをやっていくべきだ!
いつも以上にやる気だぞ、オレは!
司
それに引きずりこまれるマイムだけでは、
臨場感が足りないだろう
臨場感が足りないだろう
司
やはり前のように奈落から死者が出てきたほうが、
観客も一緒に恐怖を味わえるんじゃないか?
観客も一緒に恐怖を味わえるんじゃないか?
司
いっそ10体のゾンビロボットがオレを引きずりこむのはどうだ!
そっちのほうが派手で目立つだろう!
そっちのほうが派手で目立つだろう!
寧々
10体でって……それはさすがに危なくない?
この前だってケガしそうになってたのに
この前だってケガしそうになってたのに
司
問題ない。前はうっかりしたが、本番では必ずやりきる!
むしろ多少危険に見えるほうが、ハラハラ感が増すはずだ!
むしろ多少危険に見えるほうが、ハラハラ感が増すはずだ!
司
どうだ? 類
類
……いや
類
実際に引きずりこむのは、あまり舞台映えしない。
このシーンならもっと舞台全体を使ったほうがいいよ
このシーンならもっと舞台全体を使ったほうがいいよ
類
やっぱりさっきの舞台奥から現れるプランに……ん?
類
どうしたんだい?
どこか変なところがあったかな?
どこか変なところがあったかな?
寧々
変っていうか……
えむ
うん……。
なんだか、いつもの類くんっぽくないなぁって思ったの
なんだか、いつもの類くんっぽくないなぁって思ったの
類
いつもの僕らしくない……?
類
そうかな。僕はいつも通りのつもりなんだけど。
どこがいつもの僕と違うんだい?
どこがいつもの僕と違うんだい?
えむ
どこがって言われると
わからないんだけど~
わからないんだけど~
司
…………
司
——おい、類
司
お前、本当にそれが一番やりたい演出なのか?
類
——え?